木曜 文学の世界

この番組は、古今東西の名作や受賞やベストセラーで話題になっている作品をいち早く取り上げ鑑賞すると共に、著者の生き様や作品が出来るまでの知られざるエピソードを講師の解説により丁寧に辿っていきます。

2023年1月~3月放送予定

“弱さ”から読みとく韓国現代文学

講師:小山内 園子(おさない そのこ) 翻訳家

いまや世界を席巻する韓国発のエンターテインメント。韓国現代文学もまた世界で次々と翻訳され、日本でも『82年生まれ、キム・ジヨン』がベストセラーになった2018年以降、その勢いと人気はとどまることがありません。韓国現代文学の魅力はどこにあるのでしょうか? 韓国には「参与文学」=「社会とかかわり発言する文学」という言葉があります。貧困や性差別、不平等な労働、高齢化社会と少子化といった社会問題や、光州事件、セウォル号事件など時代を象徴する出来事を文学作品にすることで共有し、社会を変える力にしていこうという流れのことです。特に2000年以降に発表された韓国現代文学で、さまざまな形での人間の“弱さ”を正面から見据えた物語が多く書かれてきたのは特筆すべき点です。変化の激しい歴史の陰で、大量に生まれてきた社会的弱者の存在、社会システムの脆弱さ……それらを訴え、叫ばれる声を文学に昇華してきたのが韓国現代文学なのです。中でも女性作家が次つぎと登場し、目覚ましい活躍を見せています。その背景には、とりわけ2016年江南駅での女性殺人事件をきっかけに巻き起こったフェミニズム運動の高まりがあるといえるでしょう。この講座では、翻訳家の小山内園子さんを講師に迎え、韓国現代文学においてどのように“弱さ”が描かれ、そこからどのようなメッセージが読みとれるのか考えていきます。

出演者プロフィール

小山内 園子(おさない そのこ)
1969年生まれ。東北大学教育学部卒業。NHK報道局ディレクターを経て、延世大学などで韓国語を学ぶ。訳書に、ク・ビョンモ『四隣人の食卓』(書肆侃侃房)、イ・ヒヨン『ペイント』(イースト・プレス)、カン・ファギル『別の人』(エトセトラブックス)、『大丈夫な人』(白水社)。共訳書に、イ・ミンギョン『私たちにはことばが必要だ』(タバブックス)、チョ・ナムジュ『彼女の名前は』(筑摩書房)など。


<各回タイトルと取り上げる予定の作品>

第1回    なぜ魅せられるのか
第2回    フェミニズムの視点    チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』
第3回    性差別と地域差別    カン・ファギル『別の人』
第4回    クィア 性と生    パク・サンヨン『大都会の愛し方』
第5回    リストラが残した傷    孔枝泳(コン・ジヨン)『椅子取りゲーム』
第6回    労働者の連帯    パク・ソリョン『滞空女    屋根の上のモダンガール』
第7回    民主化運動の後で    キム・スム『Lの運動靴』
第8回    セウォル号事件    ファン・ジョンウン『ディディの傘』
第9回    少子化が生む想像力    イ・ヒヨン『ペイント』
第10回    社会の周縁から    キム・ヘジン『中央駅』
第11回    伝説の高齢女性    チョン・セラン『シソンから、』
第12回    喪失と再生の老年    ク・ビョンモ『破果』
第13回    弱くある自由へ    チョ・ナムジュ『私たちが記したもの』(2023年3月頃刊行予定)

2022年10月~12月放送予定

生きていくための現代短歌

講師:東 直子(ひがし なおこ) 歌人

五七五七七の音数律をもつ短歌は、1300年以上も前から現代まで受け継がれている詩形です。三十一音のリズムは、その時代の空気感を敏感に表現します。歌人はそれぞれの時代で何を、どう詠ってきたのか。本講座では、歌人であり、小説家、脚本家としても活躍する講師が、現代短歌を「人生」「命」「食」「遊び」「眠り」といった身近なテーマで切り分け、最新の短歌も含めて解説していきます。1回の放送につき5首程度取り上げます。同じテーマの作品でも、歌人それぞれの個性が映し出されている作品を、歌人の人となりやエピソードも交えて味わいます。

出演者プロフィール

東 直子(ひがし なおこ)
1963年生まれ。96年「草かんむりの訪問者」で歌壇賞受賞。同年、歌集『春原さんのリコーダー』でデビュー。2006年から小説も発表し始め、『いとの森の家』で坪田譲治文学賞を受賞。2009年よりNHK短歌選者。歌壇賞や角川短歌賞の選考委員のほか、新聞・雑誌などの投稿欄でも選者を務める。歌集に『東直子集』(邑書林)、『十階』(ふらんす堂)ほか。小説やエッセイに『とりつくしま』(ちくま文庫)、『私のミトンさん』(毎日新聞社)、『らいほうさんの場所』(講談社文庫)、『いつか来た町』(PHP研究所)、『いとの森の家』(ポプラ社)、『トマト・ケチャップ・ス』(講談社文庫)など。


第1回    人生をよむ(1)こどものいる風景
第2回    人生をよむ(2) 恋と生き様
第3回    人生をよむ(3) メメント・モリ(死を想う)
第4回    命をよむ(1) 私たちの身体
第5回    命をよむ(2) 植物を見つめて
第6回    命をよむ(3) 動物とともに
第7回    食を味わう(1) 食と生活
第8回    食を味わう(2) 菓子と果物
第9回    食を味わう(3) 飲み物
第10回    遊びをよむ(1)街をさまよう
第11回    遊びをよむ(2)趣味と娯楽
第12回    眠りのめぐり(1)睡眠の極意
第13回    眠りのめぐり(2)夢を深める

2022年7月~9月放送予定

戦争と災厄の文学を読む

講師:越野 剛(こしの ごう) ロシア文学研究者

歴史家ティモシー・シュナイダーは、ウクライナ、ベラルーシ、ポーランドなど、スターリンのソ連西部からナチス・ドイツまでの地域を「ブラッドランド(血塗られた土地)」と呼びました。そこではいまウクライナで起きている戦争のように、政治的な変動が起きるたびに多くの命が失われてきました。そしてその地の文学者は、『戦争と平和』でナポレオン戦争を描いたトルストイをはじめとして、激動の歴史の中で生きる人々の姿を描いてきました。ウクライナとベラルーシにルーツを持ち、ロシア語で執筆をする2015年ノーベル文学賞受賞作家アレクシエーヴィチは、独ソ戦やチェルノブイリ原発事故、ソ連崩壊など大きな歴史に翻弄されながら生きる市井の人々を「小さな人たち」と呼び、その声を普遍的な文学に昇華させた作家です。この講座では、トルストイとアレクシエーヴィチという二人の近現代の世界的作家から、日本では広く知られていないロシア語文学の作家たち、またウクライナ語やベラルーシ語で書かれた文学作品も紹介しながら、戦争をその極限とした激動の近現代史を「小さな人たち」がどう体験してきたかを、文学・映像作品を手がかりにして読み解いていきます。「ブラッドランド」の中心ともいえるウクライナとベラルーシの複雑な民族の関係、女性の戦争体験にも焦点を当てます。

出演者プロフィール

越野 剛 (こしの ごう)
1972年生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。在ベラルーシ共和国日本国大使館専門調査員、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター准教授などを経て、2021年より慶応義塾大学文学部准教授。著書に『ベラルーシを知るための50章』(共編著、明石書店)、『社会主義文化における戦争のメモリースケープ――旧ソ連・東欧・中国・ベトナム』(共編著、北海道大学出版会)など。『現代思想』2021年12月臨時増刊号「総特集:ドストエフスキー生誕二〇〇年」の編集にも携わる。


第1回    イントロダクション:「ブラッドランド」とその文学
第2回    民衆(ナロード)神話の解体――トルストイ『戦争と平和』(1)
第3回    新しいナロードの神話――トルストイ『戦争と平和』(2)
第4回    戦争は女の顔をしていない?――ドゥーロワ『女騎兵の手記』
第5回    赤い世界文学――オストロフスキー『鋼鉄はいかに鍛えられたか』
第6回    ユダヤ人の見た革命――バーベリ『騎兵隊』
第7回    狭間の人々の革命――ブルガーコフ『トゥルビン家の日々』
第8回    ユダヤ人の見た戦争――グロスマン『人生と運命』
第9回    ナチスの戦争犯罪――アダモヴィチ『ハティニ物語』
第10回   戦争と飢餓――グロスマン『万物は流転する』
第11回    冷戦と想像の中の核戦争――グルホフスキー『メトロ2033』
第12回    未来の記憶――アレクシエーヴィチ『チェルノブイリの祈り』
第13回    過去を生きる――アレクシエーヴィチ『セカンドハンドの時間』


2022年4月~6月放送予定

作家と旅するイタリアの街

講師:和田 忠彦(わだ ただひこ)イタリア文学研究者

コロナ禍で旅行もままならない日々のなか、居ながらにしていつでも自由にできる旅があります。かつて訪れた街やまだ見たこともない街を、書物のなかで旅することです。この講座では、日本人にとって長く魅力のつきない国のひとつであり続けてきたイタリアの街を、おなじみのローマやヴェネツィア、ミラノだけでなく、北から南まで旅します。イタリアの作家たちがそこでどのように生き、どのように街を描写したのか。ある時はリアルに、ある時は幻想的に描かれた街の魅力を探っていきます。エーコ、カルヴィーノ、パヴェ―ゼなど現代イタリアを代表する作家の作品以外にも、詩、児童文学なども幅広く取り上げながら、イタリアの歴史・文化や暮らしについてもふれていきます。

出演者プロフィール

和田 忠彦(わだ・ただひこ)
1952年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。専攻はイタリア文学。東京外国語大学名誉教授。著書に『声、意味ではなく』(平凡社 2004)、『ファシズム、そして』(水声社 2008)、『タブッキをめぐる九つの断章』(共和国 2016)、『遠まわりして聴く』(書肆山田 2017)など。ウンベルト・エーコ、イタロ・カルヴィーノ、アントニオ・タブッキをはじめ、イタリア近現代文学の訳書多数。


第1回    イントロダクション ~〈見えない都市〉とヴェネツィア
第2回    故郷の風景 ~サンレモ
第3回    作家たちの遭遇 ~トリノ
第4回    子どもと統一国家の誕生 ~『クオーレ』のトリノ
第5回    旅のはじまり、謎のはじまり ~ジェノヴァから
第6回    『ピノッキオ』と『デカメロン』のフィレンツェ
第7回    国境の街、混交の文化 ~トリエステ
第8回    歴史からこぼれ落ちた島 ~シチリア
第9回    半島のなかの異郷 ~エボリとフォンタマーラ
第10回    陽気と喧噪の裏側 ~ナポリ
第11回    堆積する時間 ~ローマ
第12回    生き急ぐ街 ~ミラノ
第13回    水が刻む時、ふたたび〈見えない都市〉へ


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