おやすみ王子

第3話 金平糖の夜  恩田陸


 

金平糖って、お星様に似てない?
そう、このとげとげ突き出したところは、お星様の放つ光。そんなふうに見えない?
はい、じゃあ夜空を見上げてみましょう。
空にはたくさんの金平糖。色とりどり、綺麗だね。
じつは、この夜空のどこかに、金平糖のスポーツジムがあるんです。
え? 経営母体はどこかって? 入会金は幾ら? チケット制か月謝制か?
はいはい、そんな面倒臭いことは考えないの。
ともかく、夜空の片隅にある、金平糖ジムに入りましょう。
どこか懐かしい、金平糖の入ったビンみたいなガラスのドアを開けると、パステルカラーのポロシャツを着たスタッフが迎えてくれます。
いらっしゃいませ。こんばんは。
じゃあ、まずは金平糖のバランスボールから。
白い部屋の中には、おっきな金平糖のバランスボールがいっぱい。その中から好きな色のを選んで、うつぶせにかぶさってみたり、背中を反らしてのっかってみたり。
うーん、金平糖のとげとげが、肩甲骨の下とか、骨盤の後ろとか、柔らかく押してくれますよ。すんなり全身が伸びて、キーボードの打ちすぎでガチガチしていたところが、だんだんとほぐれていくね。なんだか、じんわりあったまってきたぞ。
次は、金平糖のルームランナー。
細長いルームランナーに、ゴルフボールくらいのサイズの金平糖が次々と、ぎっしり並んで流れてきます。その上を走りますよー。
ううっ、最初はとげとげが足の裏のツボに当たってびっくりするほど痛いけど、慣れてくると、だんだん快感になってくるね。
まるで虹の上を走ってるみたいじゃない?
おーっと、少し金平糖の流れてくるスピードが速くなった。走るほうもペースを上げなくっちゃ。たちまち汗が噴き出してくる。
ふうっ。
ひといきついたら、お次は金平糖のマシーンだ。
金平糖がつながってるマシーンのレバーを握るのは、ちょっとコツがいるね。
でも、コツをつかめば、これはこれでまた、筋肉の動きが意識できるし、自分の身体をコントロールできてる感じがして、気持ちいいねー。
はーい、セット終了。お疲れ様。
ゆっくりと、繰り返し深呼吸。
熱いお茶が出てきました。ひとくち飲んで、ガラスのお皿に入った金平糖を、口に放り込んで、かり、かり、かり。
あれっ、いつのまにか、ジムの中にあった金平糖がみんな、ジムを飛び出して空に飛んでいっちゃった。
夜空に金平糖がひとつ、ふたつ、みっつ――
ご馳走さまでした。

番組へのメッセージ

今回初めて映像での朗読劇に挑戦させていただきました。
現実離れした可愛らしい題材でしたので、視聴してくだるみなさんと一緒にその世界観に浸れるようにと心掛けて読ませていただきました。
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
ありがとうございました。
 
町田啓太

「……あー忙しい! 全っ然、仕事終わんないし! 疲れた……ふう、やっと家に着いた。
眠い。
でも、眠りたくない。
ようやくこれから自分の時間なのに! 寝たら一瞬で朝だし、またすぐ仕事なんてイヤ!……」という貴方に捧げます。
 
恩田  陸


恩田陸

恩田陸(おんだ・りく)

1964(昭和39)年、宮城県生れ。早稲田大学卒。1992(平成4)年、日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となった『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞、本屋大賞を、2006年『ユージニア』で日本推理作家協会賞を、2007年『中庭の出来事』で山本周五郎賞を、そして2017年『蜜蜂と遠雷』で直木賞とふたたび本屋大賞を、それぞれ受賞した。ホラー、SF、ミステリーなど、さまざまなタイプの小説で才能を発揮している。著書に、『三月は深き紅の淵を』『木曜組曲』『ネバーランド』『夜の底は柔らかな幻』などがある。

トップへ