制作者コラム

クリエイティブネクサス プロデューサー 佐藤知樹

異界百名山

□異界百名山との出会い

緑の稜線から湧き上がる白い雲が、真っ青な空に映える日本の夏山。
でもそんな爽やかな風景は、山のほんの一部の表情でしかないんです!

「にっぽん百名山」などの取材で、山に滞在することが多い私は、登った先の山小屋やガイドさんたちから、山で不思議な経験をしたという体験談を何度となく聞いて来ました。夜中に稜線上を飛び交うカラフルな光の玉を見たという話や森のある場所に行くと必ず綺麗な服を着た女の子が歩いてくる、など、かなりオカルトチックな話も多かったのですが、山の上という非日常のシチュエーションと語り手の真剣な顔を見ていると、まんざら嘘でも無さそうだと、なぜか納得してしまう自分がいました。

そんなある日、今回の番組のディレクターが「面白い本があるんですよ!」と嬉々として見せてくれたのが“山怪~山人が語る不思議な話”という山と渓谷社から出版されている本でした。著者の田中康弘さんはマタギの暮らしなどを撮影している写真家で、日本各地の山で聞いた不思議な体験を地道な取材によってまとめたルポルタージュでした。まさに自分がこれまで山で聞いて来たような不思議な話が、鬼気迫るリアリティと共に、かなりのボリュームでまとめられていたのです。この本で紹介されている不思議体験者の中には、昔からの知り合いもいて、本で紹介された話をベースに映像化したら相当面白いドキュメンタリー番組が出来るのではないかとディレクターとうなずき合ったのでした。

さっそく、著者の田中さんや出版社の方に連絡し映像化について相談したところ快諾を頂き、本には登場しない新たな取材先も加えつつ番組制作が始まりました。どうせなら、体験者の人物像や山での暮らしぶりなども深掘りしつつ、不思議体験を安易な再現映像にはせずに、山の風景のイメージ描写とインタビューのみで表現しようと考えました。撮影には情景描写に優れる一眼レフカメラを多用。結果、山の“異界感”の表現に成功したと思います。

日本の山は、太古の昔から、この世とあの世をつなぐ異界の入口だったというテーマのもと、日本人の死生感や自然との付き合い方、また、神話や物語の生まれる原点などについてスタジオトークも盛り上がりました。私たち日本人は、山にひかれ、山を仰ぎ見て、ご来光に手を合わせます。現代人が無意識のうちに求めている「異界の物語」の魅力とは何なのか?
都会でなくしてしまった「山」の中でしか得られない「何か」に気づく番組となりました。


※取材協力 田中康弘 「山怪」より


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