メロウな徒然草

第325回 2019年1月21日放送分

いつもご清聴ありがとうございます。

早いもので1月も下旬です。
ほんの少し前に年が明けたばかりという気がするんですが……。
かつてはこんな時期のこんな心情を、よく「お屠蘇気分も抜けきらない」なんて言ったものですが、最近はこの言い回しに出会う頻度もめっきり減りましたね。
みなさんは、今年のお正月にお屠蘇を飲みましたか?

私が子どもだったころ、お屠蘇といえば、口にすることが親から許される唯一のお酒でした。
元日の朝に年少者から年長者への順に飲む、いわゆる縁起物ですからね。
実家で最年少だった私は、物心ついたときから毎年家族の誰よりも早くお屠蘇をいただいたものです。大中小の三種類ある盃のなかでも、いちばん小さな盃で。
お屠蘇といっても酒は酒。ア・ローズ・イズ・スティル・ア・ローズ。ですから、幼いころはもちろん飲むというよりは舌先で舐めるだけでした。
それでも飲酒という非日常を体感することで、子供心に新年の到来をつよく感じていました。
今になってみれば、たとえ親は認めても法律的にはどうなのか、なんて、いくらでも揚げ足は取れますけど。ま、縁起物ですから。

ところで、今年のお正月を私は都内の自宅で過ごしました。
お正月といえば、実家のある福岡か海外で過ごすことがほとんどなので、ずっと東京にいるのはじつに十数年ぶりでした。
いつ購入したのか(あるいは譲り受けたのか)忘れましたけれど、自宅には漆器の屠蘇器があります。
昨年末、久しぶりにこれを使ってみようと思い立った私は、お屠蘇の素となる屠蘇散を買い求めるために、近所の薬店に足を運びました。
ところがあいにく売り切れ。髪に白いものがまじる60代くらいの男性店長は、申し訳なさそうな表情で「最近はそんなにたくさん仕入れていないんですよ」と教えてくれました。

なるほど、そんな時代なんだなあ。何となく気づいてはいました。年賀状と同じように。
では屠蘇散って、ほかにはどんなところで売っているものか。
次に私が向かったのは、薬店とは目と鼻の先にある庶民的なスーパーマーケットでした。
ところが「屠蘇散置いてます?」と若い男性店員に尋ねても、彼は「トソ…トソサン?」と訊き返してくるではありませんか。
トソサンという響きになじみがないのかと思った私は、「お屠蘇をつくる薬草ですよ」と答えました。
すると今度は「オトソ? え?」とオドオドするばかり。
そこから?
「え?」を言いたいのは私のほうなんですが。
こういう時って客のほうがお屠蘇をわざわざ説明しなきゃいけないの? とあきれつつも、今は目の前の彼の理解を助けることが屠蘇散入手への最短距離であると自分に言い聞かせた私は、できるだけ平易な表現を心がけて「お正月に一年の健康を祈って、盃で飲むお酒があるでしょう」と述べました。
しかし……彼は困惑と恐縮がまだらに配された表情を浮かべながら「はあ。そういうものはないです」と答えたのでした。
そういうものは。あたかも客の私は何か特殊な神事に携わる宗教関係者のようです。
この日のやりとりは、私に「来年の元旦はお屠蘇を飲むのをあきらめよう」と思わせるに十分でした。
そりゃ平成の時代も終わりますよ。もう終わりは始まっているのかもしれない。

この番組『松尾潔のメロウな夜』には、毎回「寝酒」という言葉が出てきます。
寝酒のおとも。
これは9年前に番組を立ち上げたときから一度も欠かすことなく口にしているフレーズ。
「メロウな音楽」の定義として、今のところこれ以上の表現を私は知りません。
人生で初めて飲んだ酒は四歳の正月のお屠蘇、最後に飲んだのは昨夜のナイトキャップ。
そんなことをふと思った今回の徒然草でございます。

以上、今年も鈴木雅之さんと行った初詣でいただいた某神社のお神酒がお屠蘇がわり、松尾潔でした。


第324回 2019年1月14日放送分

いつもご清聴ありがとうございます。
本日は成人の日。この番組をお聴きになった新成人の方はいらっしゃいますか。
いや……じつはウチの子が新成人で、というリスナーのほうがむしろ多いのかもしれませんね。

今夜はゲストに音楽評論家の林剛さんをお迎えして「メロウな新春対談」をお届けしました。
メロ夜ではもうすっかりおなじみの林さん。毎度のことながら、その情報摂取力、分析力、そして予見力の高さには舌を巻く思いです。
それなのに威圧感がなく、いつも気持ちよくおしゃべりを聞くことができるのは、そのお人柄あってこそでしょう。ソフトで理知的な語り口にすべてが表れていますよね。
何より、林さんは古今のメロウなR&Bを全肯定されている。そこに私は強い共感を覚えます。

以下、番組のなかで発表した「2018年 メロウなR&BアルバムTOP5」を記しておきます。

[林剛さん選]
#01, 4275 / Jacquees 
#02, Ella Mai / Ella Mai
#03, Tru - LP / Lloyd 
#04, Saturn / Nao 
#05, Caution / Mariah Carey

[松尾潔選]
#01, 4275 / Jacquees 
#02, K.T.S.E. / Teyana Taylor
#03, Playing For Keeps / Keith Sweat
#04, Ella Mai / Ella Mai
#05, Tru - LP / Lloyd 

ちなみに、林さんがいまのR&Bシーンの新たなキーパーソンとしてご紹介したのが、H.E.R.をはじめ、カリード、ブライソン・ティラー、SZA、チャイルディッシュ・ガンビーノなど、メロ夜御用達の人気アーティストに関わってきたRCAレコードのA&R責任者です。
その名、トゥンジ・バログン。
林さんがその発音にちょっと慎重になっていたのは、ひとえにそのアフリカンな表記ゆえ。
Tunji Balogun だそうです。今後は彼の仕事ぶりにも注目していきましょう。
林剛さんにはまた夏ごろゲストにお越しいただきたいと思います。

さて、来週は今年初めてのレギュラー・プログラム「メロウな風まかせ」をお届けします。
昨年末からストックしてきたメロウな新譜を一挙にご紹介しますよ。どうかお楽しみに。

以上、メロウなR&Bって飲むほどにお代わりしたくなる魔法のお酒だなあ、松尾潔でした。

松尾潔のメロウな夜

第323回 2019年1月7日放送分

明けましておめでとうございます。
2019年初めての放送をお届けしました。どうか今年もよろしくお付き合いください。

今週は恒例のプライベートな年間チャート「メロウ・オブ・2018〜松尾潔が選ぶ2018年メロウTOP20」をご紹介しました。
今年で4回目です。あなたのお気に入りの曲はランクインしていましたか。

では以下、TOP20を記しておきますね。カッコ内はメロ夜でのオンエア日です。

#01, Leave It Smokin' / Tamia (5/14, 9/17)
#02, Never Would Have Made It / Teyana Taylor (7/16) 
#03, Finesse (Remix) / Bruno Mars feat. Cardi B (1/22) 
#04, Focus / H.E.R. (12/24)
#05, Trip / Ella Mai (8/27) 
#06, Best Day Ever / Andy Stokes (3/19)
#07, The Light / MihTy (Jeremih & Ty Dolla $ign) (8/6)
#08, Let Me Show You / Bluff City (3/5)
#09, Special / Jacquees feat. Jagged Edge (6/25)
#10, When We (Remix) / Tank feat. Ty Dolla $ign and Trey Songz (7/2)

#11, Best Part / Daniel Caesar feat. H.E.R. (2/5)
#12, A No No / Mariah Carey (11/19)
#13, Red Negligee / Keith Sweat (11/5)
#14, The Weekend (Funk Wav Remix) / SZA & Calvin Harris (1/22)
#15, Inside Voice / Joey Dosik (6/11)
#16, Medicine / Queen Naija (8/20)
#17, Done For Me / Charlie Puth feat. Kehlani (4/2)
#18, Only Love / Mary J. Blige (7/23)
#19, Keep Me Waiting / The Bonfyre (11/19)
#20, Light Flex / Tone Stith feat. 2 Chainz (5/21) 

番外・殿堂入り Boo’d Up / Ella Mai (6/11, 7/23)

今年も楽しく迷いました〜。
何しろ、20曲に絞り込む前にラフに絞った時点でも、まだ73曲残っていたんですから!
トニ・ブラクストン、ラス、ピーボ・ブライソン、ケイス、アンダーソン・パーク、ラッキー・デイ……
断腸の思いでトップ20から外した曲やアーティストのことを考えると、今でも胃がキリキリしてしまうほどです。
だからこそ、今年も言わせてください。R&Bに不作だった年はない!

次回は来週1月14日、ゲストに音楽評論家の林剛さんをお迎えしての新春対談です。

以上、“Boo’d Up”はエラ・メイ以外のバージョンもオンエアしましたねえ、松尾潔でした。

最後に、今年も昨年に続いておまけをどうぞ。「メロウ・オブ・2017」です。

#01, Before I Do / Sevyn Streeter  
#02, I Think of You / Jeremih feat. Chris Brown & Big Sean 
#03, That's What I Like / Bruno Mars 
#04, Set Me Free / Mary J. Blige 
#05, Redbone / Childish Gambino 
#06, Dangerous Games / 112 
#07, Make This Song Cry / K. Michelle 
#08, Organic / Stokley 
#09, Easy / Demetria McKinney 
#10, 5000 Miles / Johnny Gill feat. Jaheim 

#11, Right Time / Keyshia Cole 
#12, I'll Be Right Here / T-Groove feat. Winfree 
#13, More Than Life / Kenny Lattimore 
#14, Saving Grace / Chante Moore 
#15, Second To None / Daley 
#16, Boo’d Up / Ella Mai 
#17, Honey / Kehlani 
#18, Bae / Glamour 
#19, Dangerous / Lyrica Anderson 
#20, Cruise / Kevin Ross 


※過去3回分を掲載しています。
Page Top