メロウな徒然草

第375回 2020年2月24日放送分

いつもご清聴ありがとうございます。
今夜もレギュラープログラム「メロウな風まかせ」をお届けしました。
久しぶりに新しめの音源を中心に選曲しました。オールモスト新譜特集でしたね。

最後にザ・ナイトキャップ〜寝酒ソングとしてご紹介したのは、兄妹デュオ・ジューシー(Juicy)が1985年に放った美メロ“Sugar Free”。R&Bチャート(当時の呼称はブラックチャート)で最高12位を記録した、彼ら最大のヒットシングルです。1983年のモンスターヒット、エムトゥーメイ“Juicy Fruit”のアンサーソングとしても知られています。プロデュースを手がけていたのは、クール&ザ・ギャングの仕事でも知られるブラジル出身のエウミール・デオダート。
10年後の1995年には、同曲をサンプリングしたラッパーAZの“Sugar Hill”がヒット。こちらも同じくR&Bチャートで最高12位、さらにナショナルチャートでは最高25位を記録しました。当時ホットな存在だった女性シンガー、ミス・ジョーンズ(Miss Jones)が元曲“Sugar Free”の歌詞を替えて歌っており、今でも不動の人気のヒップホップ・クラシックです。

ジューシーはベースやギターを達者にこなす兄ジェリー・バーンズと、キーボードに加えてサックスも巧い妹カトリース・バーンズのデュオ。ふたりともボーカルをとりますが、あくまでもカトリースがメインというイメージでしたね。バーンズ兄妹の音楽的才能は確かなもので、ふたりともロバータ・フラック姐御に気に入られて彼女のレコーディングやライブで重用されていました。
オーケストラのスコア作りも得意なカトリースは特に多忙で、人気番組『サタデー・ナイト・ライブ』のミュージカル・ディレクター(MD)という大役も務めました。私の知るかぎり、カトリースの最も有名なキャリアは同番組のMDだと思います。

ジューシーは1982年、1985年、そして1987年と3枚のアルバムをリリースしています。
なかでも有名なのはやはり“Sugar Free”が収められた2枚目の『It Takes Two』ということになるのかな。ですが、私が最も多く聴いたのは、新譜としてリリースされたタイミングで即買った3枚目の『Spread The Love』。ゲストのチャカ・カーンが曲冒頭から美声を披露する“Spread The Love”、チャカの弟マーク・スティーヴンズとカトリースの絡みが何ともセクシーな“Serious”など、聴きどころの多いアルバムでした。

そんなカトリースが亡くなったのは昨年2019年の8月3日のこと。享年56。
10年もの間、乳がんと闘っていたことは、訃報で初めて知りました。アメリカの音楽業界では知られた話だったそうですが、寡聞にして私は知りませんでした。
メロ夜で彼女を追悼するタイミングを逸していたのですが、今年のグラミー賞の物故者コーナーで彼女の在りし日の姿が映されているのを観て、すぐにやらなくてはと思い立ったのでした。
ちなみにジェリーはもう10年以上もナイル・ロジャーズ&シックのベーシスト、つまり故バーナード・エドワーズの後任を務めていることでも知られています。
数年前にジェリーに会ったときに本人からもらったソロアルバムの私家版CD-Rは、私の宝物のひとつ。
そしてカトリースとは……YouTubeでいつでも会えますよ!

以上、たまにはこんな話も悪くないですよね、松尾潔でした。


第374回 2020年2月17日放送分

いつもご清聴ありがとうございます。
今夜もレギュラープログラム「メロウな風まかせ」をお届けしました。

番組後半「今なら間に合うスタンダード」では、先週のスタイリスティックス“You Are Everything”と同じ1971年産の絶品ソウルバラッド、ドラマティックス“In The Rain”をご紹介しました。 第38曲目。
1971年と書きましたが、これは収録アルバム『Whatcha See Is Whatcha Get』のリリースされた年であり、同盤からの3枚目のシングルとして“In The Rain”がカットされたのは、翌1972年のことです。
ソウル(現R&B)チャートで初の首位を獲得、ポップチャートでも最高5位まで上りつめ、ファーストシングルであるアルバム表題曲(R&B3位、ポップ9位)を上回る成果を収めました。

それにしてもいい曲だなあ。
ソウルバラッドの見本のような美しい形をしています。それどころか、ソウル / R&Bの様式美を規定することに大きな役割を果たしたとさえ言うことができるかもしれません。
ドラマティックスのメンバー構成が、地元デトロイトの巨星テンプテーションズを模していたことは有名ですが、アルバム単位でいえば私は同時代のテンプス作品より『Whatcha See Is Whatcha Get』をたくさん聴いています。
70年代ソウル屈指の名作アルバムと認定されている同盤は、トニー・ヘスターという当時20代の若手ソングライターによって全曲提供されたものです。
彼は歌手としてもいくつかのシングルを残しています。その歌声は、よく言えば肩のこらないライトな味わいですが、ソングライターとしての頭抜けた才能ほどには目立つものではありません。
こうして書いてみると、『Whatcha See Is Whatcha Get』とトニー・ヘスターの関係というのは、キース・スウェットのデビューアルバム『Make It Last Forever』とテディ・ライリーの関係と相似形かもしれません。
今回初めてドラマティックスの歌声を聴いたという方は、“In The Rain”を入り口に彼らの世界に濡れて……いや、触れてみてはいかがでしょう。

さて、メールを2通ご紹介しましょう。
まずは山形県の「田舎に住んでおります」さん。38歳の女性リスナーです。

週に1回でも、東京の空気が吸えて、私は幸せです(笑)
ハイカラな曲を……笑 、これからも、よろしくお願いします(笑)
東京の風は、冷たいですか?? 


そうですね。暖冬といっても、東京でも風を冷たく感じる頃となってきました。
まあ理由は気候のせいだけじゃないかもしれませんが。
ハイカラ度にはいささか自信がありませんが、これまで同様ご贔屓にお願いします。

次は、不動の最多投稿者「Buck$pin」さん。55歳、男性、フロム福島県。

パチ屋でいつもオレのアダルト・トークに頬を紅らめる若い女子が、おもむろに「子供が二人いてシングルなの」と告白。個人的な話をさせ、御免よ。
「子供と節分の豆まきしたの」指輪が無くても、素敵に頑張ってるゾ。


行間から優しさが溢れていますね。
ご自身は休職中、そしてご両親の具合が優れないそう。悩みは尽きぬことでしょう。体力や気力の低下と親のケア、これはメロ夜世代のリスナー共通の課題といえるかもしれません。
せめてこの番組がひとときの憩いになればと心から願っています。

以上、それぞれの冬が過ぎ去れば、それぞれの春がやってきますよ、松尾潔でした。


第373回 2020年2月10日放送分

いつもご清聴ありがとうございます。
今夜もレギュラープログラム「メロウな風まかせ」をお届けしました。

さて、今夜の「今なら間に合うスタンダード」では、スタイリスティックス1971年の不滅のスウィートソウル“You Are Everything”をご紹介しました。 第37曲目。
番組の尺ではこの曲の魅力を十分にお伝えすることができませんでしたね……いま私は猛烈にそんな思いに囚われています。それほどの曲です。
作編曲のトム・ベルについては「マジック」という(少なくとも私にとっては最上級の)賛辞を使いましたが、リンダ・クリードによる歌詞もまた同様にすばらしい。
要は別れた恋人を思い続けるという未練たらたらの内容なんですけど。

きょう街中で見かけたひとが君にそっくりだった。歩き方まで似てた。
そのひとが角を曲がるとき、思いきって君の名前を呼んだんだ。
瞬間、顔から火が出るかと思った。
だって「そのひと」は君じゃなかったんだから。

5秒で訳したのでクオリティは怪しいですが、まあこんな感じです。
このロマンチックな歌詞が甘い胞子となってふわふわと海を渡り、松本隆さんに「ルビーの指環」を書かせ、さらに時を経て松尾潔に「Ti Amo」を書かせた……と言ってもあながち間違いではないでしょう。
ちなみにこの曲の音盤で私が最初に入手したものは、高校時代に博多の中古レコード店で買ったダイアナ&マーヴィンの米モータウン7インチ盤です。
購入前に検盤してかすり傷を見つけ、これ幸いと値切り交渉に成功。千円でお釣りがきたのを覚えています。それで一生の愛聴曲になったのですから、安い買い物でしたね。
まあその後10や20じゃきかない枚数のこの曲の各種音盤を買うことになるわけですが。

最後にメールを1通ご紹介。常連のおひとり、新潟県の「Hot Butterfly」さん。52歳の男性。

いつもに比べて声のトーンは抑え気味に聞こえましたが、視点や語る内容は非常にユニークであり、コラムも熱く濃厚で、あらためて松尾さんの凄さにため息をつくばかりです。 
かなり前に松尾さんが雑誌?でジャム&ルイスについて、その実態がまるで「藤子不二雄(のような分業制)」ということを明らかにし、大変に驚愕したことを思い出しました。
Tell Me If You Still CareはJさん、Lさんのどちらの作品なんでしょうか?大傑作なんでどっちでもいいことですけど、ちょっと気になります。 
しかしジャム&ルイスとベイビーフェイスのタッグが実現した場合、それは藤子不二雄と手塚治虫の共作に相当するような衝撃ですね。これがマーケットならば独禁法に違反しそうで心配です。 


まずご質問にお答えしますと、この時期のJ&Lはまだふたりで一緒に実作業していたと思われます。
そして、独禁法、ですか。もちろんHot Butterflyさんもシャレでお書きになったことは重々承知で申し上げますが、90年代ならばともかく、いまのJ&Lと童顔氏のコラボは良くも悪くもそこには抵触しないでしょうね。
でもいま私は「4度目の90年代を生きている」(最近お気に入りのフレーズ)気分なので、我がココロの中では独禁法違反で間違いありません!

以上、CrazySexyCoolから四半世紀過ぎちゃったか〜、松尾潔でした。


※過去3回分を掲載しています。
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